2006-09-02 17:45:40小葵

東京タワ-33

と、言うのだった。
喜美子は買た、不思議なほどしなる身体をしていた。耕二の動き一つ一つに、彼女の肉体が幸福がつのがわたったし、耕二が肌に小さく息をこぼすだけで、喜美子は唇をふるわせた。そのくせ、どんなに激しいキスをしてやっても、たりないとばかりの足をからめる。身を反転させ、キスのさなか、まるでもっとというように、耕二の頬の手を添えさえした。喜美子の肌は、耕二の肌にぴたりと添う。
くんづほぐれつ、という言葉がけんかのためのものではないということを、耕二は喜美子に知らされた。
喜美子とのセックスには果てがなかった。波のように、いつまでも満ち干きをくり返せそうな気がした。
やがて、喜美子がほんとうにせつなそうに、
「お願い、もう許して」
と、負けを認めるまで。
耕二にとって、たとえば話をするときは、由利でなければならなかった。ほかのかわいい女ではだめで、由利は由利だからいいのだ。(話をしているとき、由利の目はいきいきとひかる。どこか甘えた口調で、それでいて頭の回転ははやく、耕二には想像もつかない方向に、言葉がどんどんでかけていく。)ただ、セックスとなると別だった。由利とのそれは、ほかのかわいい女とのそれでもおなじ気がする。そこが喜美子との違いだ。喜美子とのそれは、喜美子と自分とのあいだにしか成立しないものだと思う。二人だけにしかつくれないものだ。
「勉強家ですね」
バイト仲間の声に、耕二は現実にひき戻される。膝にひろげた商法の本---来週試験があるのだ---は、みてもいなかった。
「そろそろお客さん来ますよ」
「そうだな」

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