2006-09-27 18:26:07小葵

東京タワ-38

「とりたてて言うほど好きなものも、嫌いなものも、ない」
へんな奴だ、と、もう一度思った
透はいつも穏やかだ。腹の立つこととか、くそいまいまこととかは、ないようにみえる。反対に望外のラッキ一に有頂天になることも。
起きあがり、洗面所にいって顔を洗う。髪も濡らし、ム一スと手櫛で整えた。
きょうも、夜はビリヤ一ド場でのバイトがある。たのしく生きるには金が要るし、たのしく生きられなけれは生きる意味がない。
耕二は鏡をのぞきこむ。精悍な顔だちだ。悪くない。日焼けサロンになどいかなくてももともと適度に色は黒いし、幸運な咸可に目鼻立ちも整っている。
自惚れてるね。
喜美子の声がきこえる気がした。耕二くんは自惚れてる。ときどきむかっ腹が立つわ。
喜美子はしばしば汚い言葉を使う。耕二くんといるとうつっちゃうのよ、と言っていた。耕二はそれが気に入った。
捨てるのはこっちだ、と、決めている。
いままでもそうだったし、これからもそうだ。
鏡の前であごを上げ、あごを引く。頭のてっぺんの髪を少し直した。
「完璧」
耕二は言い、ジャケットを羽織った。

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