2006-07-11 19:27:35小葵

東京タワ-29

二年前、透が自分の生活に、詩史を加えてしまった日。加えたくなどなかったのに。
甘いソ-スのかかった鴨を片づけながら、透は耕二のことを話した。耕二と渋谷で会った日のことを。耕二のことはよく話す。詩史も憶えていて、共通の知りあいの話をきくようにきいてくれる。たのしそうに。それどころか、ややもするとなつかしそうに。
「耕二くんって、ゴリラみたいな顔をしてる?」
詩史が突然そんなことを訊いた。
「ゴリラ?いや、そんな顔じゃない」
戸惑いながらこたえた。耕二はもっと、骨ばった顔をしている。
「なんだ、ちがうの」
詩史は言い、煙草をくわえて火をつけた。ひっそりわらいながら、横を向いて煙を吐く。
「ゴリラみたいな感じだろうと思ってたの。話をきくと、いつも」
「いいな、それ。今度言っとくよ」
陽気な気分になってこたえた。耕二はきっとおこるだろう。
デザ-ト説明に来たウェイタ-を、詩史は小さく首をふって断った。
「コ-ヒ-はうちでのみましょう」
提案ではなく決定だった。詩史さんはいつもそだ。なんでもちゃんと決めている。

上一篇:東京タワ-28

下一篇:東京タワ-30