2006-07-05 18:24:13小葵

東京タワ-26

「だって忙しいんだろう、バイトだのなだのさ」
高校時代から、耕二の忙しさは変わらない。
「忙しいさ」
耕二は胸をはった。
「でも時間はつくるよ。必要なものには時間をつくる。」
きっぱっりした言い方だった。
透はなんとなく幸福になる。
「俺は暇だから」
人混みを歩きながら言った。
「いつでもいいよ。あしたでも」
人の多い街だ。勤め帰りの人々も高校生も、きりもなくあふれでてくる。透は渉谷という街が女きだ。詩史さんは青山が好きだが、透は渉谷の方がくつろげる気がする。
「極端だな。あしたはだめだ。時間つくれない」
「知ってるよ」
夜の風は甘い。肺にやさしくしみるのがわかる。
帰宅すると、九時半だった。母親はまだ帰っていない。透は水を一杯のんで、シャワ-をあびた。
詩史さんに電話をしてみようか、と考える。電話は、いつかててもいいことになっている。携帯なので他の人はでないし、都合の悪いときにはスイッチを切っているから、と。
都合の悪いとき。商談中とか寝ているときとか、あるいは夫と一緒のときとか。
詩史さんとその夫は、毎晩きまって酒をのもという。
「二人とも仕事を持っているでしょう?なかなか一緒の時間がとれなくて」
詩史さんはそう説明した。
「食事もほとんど別々なの。私は料理が好きじゃないし」
透は、何度かいったことのある詩史のマンションを思いだす。リビングに、小さな観音像がおいてあった。
「きれいでしょ」

上一篇:東京タワ-25

下一篇:東京タワ-28