2006-07-04 20:44:49小葵

東京タワ-25

しめくくりにうどんを食べようかどうしようか迷う。
「ふ一ん」
耕二がにやりとした。
「十七のときから愛欲におぼれてた奴に言われたくないよ」
耕二にはそうみえるのかもしれない。透は口をつぐんだ。
「一回会ってみたいよな、透の詩史さんに」
詩史さん、という名前が他人の口から発音されるとき、それは何か全然別なもののように思えた。
透の知っている、あの詩史とは何の関係もないもののように。
「いつかな」
透は短くこたえ、店員を呼びとめてうどんを注文する。
「あ、俺も」
耕二が言い、そのあとは、二人で黙々とうどんを食べた。
おもては空気がつめたかった。ネオンだらけの街からでも、星がみえる。透と耕二のあいだには、二軒目の店にいくという習慣がない。大人数でいるときは果てしなくはしごもするのだが、どういうわけか、二人でいるときはしない。
「今年じゅうにまた会おうぜ」
耕二が言った
「そうだな」
透の「そうだな」は、文字どおりそうしたいという意味で言ったものだったが、耕二には不服だったようで、
「つめたいようなあ」
と、大きな声で言った。
「月に一度くたいは会おいぜ」
透は苦笑する。

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