原文 神無ノ鳥 シーン回想 番外編 【振り仮名付き】 五
神無ノ鳥 シーン回想 番外編
五
とある山―社
(紗)「…斑鳩さま、斑鳩さま。起きてください」
(斑鳩)「う…ん……」
身体を揺すられ、斑鳩は目を覚ます。
(紗)「あっ、お目覚めになりましたね」
(斑鳩)「…紗?ここは……」
周囲【しゅうい】を見回してみて【みまわしてみて】、斑鳩は昨夜【ゆうべ・さくや】のことを思い出す【おもいだす】。
(紗)「おはようございます、斑鳩さま」
(斑鳩)「…ああ。ここは…」
(紗)「私の家【いえ】です。目を覚ましたら、斑鳩さまがいらっしゃったので驚きました【おどろき】けれど。」
(斑鳩)「ああ。…昨夜【ゆうべ】は、勝手に【かってに】上がり込んでしまって【あがりこんでしまって】すまなかったな」
(紗)「えっ?いえ、気にしないでください。怒っている【おこっている】訳ではないのです。斑鳩さまがこのようなむさくるしいところにいらっしゃったので、驚いただけですから…」
(斑鳩)「…そなた、私を一体何者だと思っているのだ?私は武家でも無いし、貴族でも無いのだぞ」
紗のへり下った【謙った・へりくだった】態度【たいど】への不満【ふまん】を露わにしながら【あらわにしながら】、斑鳩が言うと。
(紗)「けれども、わたしより尊い【とうとい】身分の方【かた】だということは分かります」
(斑鳩)「そうではないと言うに…」
だが自分が『神無ノ鳥』だと説明しても【せつめいしても】、この娘には理解出来ぬかも知れない。
斑鳩はそれ以上、説明するのをやめた。
(斑鳩)「…熱は、もう下がった【さがった】か?」
(紗)「え?あっ…」
(斑鳩)「昨夜、そなたは高い熱を出して寝込んでいただろう」
(紗)「もう、大丈夫【だいじょうぶ】です。熱は大分【だいぶ】、下がりました」
(斑鳩)「…嘘【うそ】だな」
薬を飲んだ【くすりをのんだ】訳でもないのに、たった一晩【ひとばん】であれだけの熱が引く筈【はず】が無い。
(紗)「嘘じゃないですよぅ」
(斑鳩)「………」
斑鳩は無言で、紗の額へと掌を当てた。
(紗)「…い、斑鳩…さま…?」
(斑鳩)「熱い。…そなたには、もうしばらく休養【きゅうよう】が必要【ひつよう】だ。休め【やすめ】」
(紗)「で、でもわたしは……」
(斑鳩)「休め、と言うておる」
(紗)「………」
斑鳩の有無【うむ】を言わせぬ口調【くちょう】に、紗は無言で床へと座り込んだ【すわりこんだ】。
(紗)「…これくらいの熱でも、寝なくても大丈夫です」
(斑鳩)「そなたは医者【いしゃ】では無いだから、判断できまい【はんだんできまい】」
(紗)「自分の体の事は自分が一番【いちばん】良く分かってますよ…」
(斑鳩)「いいから、もうしばらく休んでいろ」
(紗)「………」
紗は斑鳩に言われた通り、横になってむしろ【蓆】をかぶった
(斑鳩)「食事【しょくじ】などはどうしているのだ?建物の外にも中にも、それらしきものは見当たらない【みあたらない】が」
(紗)「…熱を出している間は、ふもとの村まで降りる事が出来なかったので…」
(斑鳩)「飲まず食わず【くわず】か?…だから熱が下がらぬのだ」
(紗)「すみません……」
(斑鳩)「…とりあえず、私が何か食えそうな物を探して来よう【さがしてこよう】」
(紗)「えっ?け、結構【けっこう】です、そんな…」
(斑鳩)「何も食わぬままだと、いつまで経っても【たっても】熱が下がらぬぞ」
(紗)「………」
(斑鳩)「では、私が戻るまで大人しゅう【おとなしゅう】しておれよ」
(紗)「あ、あのっ……」
(斑鳩)「何だ?」
(紗)「有難うございます、斑鳩さま」
(斑鳩)「礼ならば、熱が下がってから言え」
斑鳩は冷たく吐き捨てた後、紗の住む社を出た。
…とりあえず山に入って薬草【やくそう】と木の実【きのみ】をいくつか摘んだ【つんだ】後、社へと戻って来る。
出處:[すたじおみりす team L←→R] 神無ノ鳥
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