2004-04-30 21:53:44pochi

新加坡之朝

 新加坡之朝


 ようやく日本も夏めいてきて、シンガポールのちょっとけだるい朝を思い出す。

 今日は、連休の狭間だったが、八時過ぎまで仕事をしていた。景気がよいのか悪いのか、よくわからないが、このところ仕事は忙しい。

 日本人の私たちは、子供のころ、「人の迷惑にならないように、」と、親から教わる。でも、人が生きていく限り、なかなか人に迷惑をかけずに、ひとに世話にならずに、生きてゆくことはむずかしい。

 シンガポールにいたころは、夜昼なく働き、いつもプラントサイトで朝を迎えていた。国内にいて、のんびりと働いている人たちのことを考えては、「彼等が日本でのんびりと暮らしていられるのは、こうして炎暑の外地で夜昼なく仕事している人間がいるからだ。」と、むきになって考えることもあった。たしかに、それは真実だと思う。地球上のいたる所で、自分の人生を削って働いている人はたくさんいて、けっきょく、そういう人たちが国を支えている部分は大きい。それは日本に限らず、台湾でも、アメリカでも、タイでもみな同じだ。

 でも、ちょっと考えてみると、私自身も、そうした生活をするために、身近な人たちにたくさん迷惑をかけてきた。いま、それを考えると、顔が紅らむ。
 いずれにしても人間が生きていくことは、何らかの形で、人に迷惑をかけてしまうものなのかもしれない、それは、いつも頭の片隅に置いておくべきことだろう。

 さて、イラクの人質のことが、まだニュースをにぎわしている。
 せっかく助かったのに、世論は相変わらずまっぷたつに分かれて、彼等を話題にしている。彼等に罪はない。どんなことがあっても、自国民が拘留されたら、救出に全力をつくすのが国家のあるべき姿だと思う。かかったお金の問題ではない。

 でも、批判するほうの心の中にあるのは、もっとぼんやりした、もやもやしたものではないだろうか。不景気の日本、お金を得るためには嫌なこともしなければならない。嫌なやつにも頭を下げなければならない。それでも、まあまあ、の人生だと自分に言い聞かせている。ところが、拘留された日本人は、その歳まで自由闊達に生きてきたようだ。生活に困ることもなく、世界中を見て歩いてきた。シリアスなボランティアに人生をかけている、というのでもない。(彼等の意気込みは立派であり、彼等の行動を批判するわけではないが、ほんとうに「恵まれない人たちのため、」と考えている人たちは、もっとずっと真摯だ。それは、各地で実際にそういう人と出会ってきた私には多少はわかる。)

 人質は拘留され、家族が言う。「政府が悪いから」「自衛隊を撤退させろ。」うん、それはわかる。人の命は大切だから、自衛隊くらい撤退させてもいいだろう。でも、ちょっと待て、彼らが自由奔放にふらふらしていたあいだ、俺たちはなにをしていた?嫌なやつにぺこぺこし、朝早くから満員電車に揺られ、安い給料から税金を払ってきた。そして、そんな人生を知らないような彼ら、開放された人質が、「自分たちは苦労しました。」と、胸を張って言うのを聞くと、なにかしっくりしない、奥歯に骨が引っかかったような気持ちになる。たぶん、そんな感じなのだと思う。

 私個人としては、まあ助かってよかった、と思うことと。このごたごたで、ほんとうにまじめに、世界中の困っている子供たちのために、人生を削って働いている人たちへの風当たりが、悪いものにならないことを祈るだけである。

 最近、ボランティアというのは、生まれつきのものであり、ほんとうのボランティアができる人は、生まれたときに決まっているんじゃないか、と考えることがある。どんなものでしょうか?




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奥歯に骨が挟まった 呑呑吐吐 (奥歯=槽牙)
例文
奥歯に物が挟まったような言い方をする
説話呑呑吐吐

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