2014-01-25 00:11:55雪子
食べ物とアイデンティティ
私の実家のある地域は、私が子供の頃、酪農が盛んでした。ですから、子供の頃は毎日地元産の牛乳を飲んでいました。私は乳製品が大好きで、牛乳、バター、チーズ、ヨーグルトなどどれでも大丈夫。台湾で子どもを産んでからは、子どもにもおいしい、余計な添加物の入っていないヨーグルトを食べさせたくて、わざわざ車で３０分ほどの距離まで買いにいっていました。乳製品大好きな私は、昨年までは朝１杯、夜寝る前もホットミルクを１杯飲まないと落ち着かないほどでした。
昨年、いつも買っていた大手メーカーの牛乳から抗生物質やその他いろいろ入っていてはいけないものが検出されたというニュースを聞きました。そこで、行きつけのヨーグルト店に行ったとき、店主に原料の牛乳を変える予定はありますか？と尋ねました。店主は「ちょっとくらいなら（抗生物質入りのヨーグルトを）食べても平気だよ！」と不機嫌そうに答えました。彼の答えをきいて、もうヨーグルトを食べるのはやめようと決心しました。
その後『牛奶，謊言與內幕』や、陳惠雯『幸福市集』など彼女の一連の著作を読み、それまで大好きだった乳製品全般を控えようと思い立ちました。そして年末からいろいろ調べて、出会ったのがマクロビオティックを取り入れている料理家のレシピでした。
ブログをよんでとても魅かれたのは奥津典子さんの考えでした。ブログを読み進めてわかったのは、彼女のお店が吉祥寺にあるということです。もう一人はなかしましほさんでした。なかしまさんのお店は国立市北にあります。たんに食べ物に対する考え方や態度に共感したり、レシピに興味を持っただけなのですが、彼女たちの拠点が、私が大学時代に住んでいたところ（国立駅北口）、仕事をしていたころ住んでいたところ（吉祥寺）にあることを知って驚きました。中央線沿線、特に新宿以西、立川以東は、独特の文化があります。私や彼女たちのように、地方で育って、大学進学や就職で上京し、中央線沿線の独特の雰囲気に魅かれて定住する人は多いのです。私は中央線沿線を離れて９年目になります。今は台湾の地方都市で、中央線沿線時代とはまったく違う生活を送っています。博士課程で空間とジェンダーの研究をしていたときに、自他ともに中央線人と認める私が、実は吉祥寺という空間にちっともなじめていなかったこと、傷つけられていたことを発見し、ショックを受けたりもしました。......それでも、私が息子たちと共有したいもの、伝えたいもの、残したいものは何かということを真剣に追求したとき、私はやっぱり私は中央線的なものを選択するのだということに気づき、本当に驚きました。
最近気づいたのは、文化アイデンティティと食物（特に自分が大切に思っている人に差し出す食べ物）は密接に関連しているのだということです。ごはんやおやつを作っていると、私が子どもの頃母に作ってもらってうれしかった食べ物を作ることがあります。でも、成人前の家庭や郷里から与えられたものだけで、文化アイデンティティが構成されている訳ではありません。成人後、自分の価値観を形成する青年期に過ごした都市やそこで知り合った人々も、文化アイデンティティの形成に深く関わっているのです。
奥津さんのレシピで作ったスープはうまくいきませんでした。奥津さんのレシピは、材料をきちんとそろえ、手順もきちんと守らないとおいしく作れないと感じました。でも気候風土の違う台湾では難しいです。一方、なかしまさんのレシピは、道具も材料もシンプルで、材料も手元にあるもので代用してもそれなりにできました。なかしまさんのクッッキーを作って、午後のおやつの時間に二人の息子と食べる時間はとても心地よいものです。食後も心なしか乳製品たっぷりのおやつを食べた後より、体に負担がかからないような気がします。まさに書名のとおり、「まいにちたべたい」でした。これらのレシピがあの国立駅北口付近で生まれたと思うと、さらに親しみを感じるのです。
でも、私の文化アイデンティティが郷里と中央線沿線だけにあるわけではありません。やっぱり、現在暮らしてい台湾も私に影響を与えています。息子たちに与えるものは、食物マイルの短いもの、台湾産の良質な食材を選んで与えたいと常日頃願っています。なかしましほさんのレシピで、でも材料は台湾産（良質な物に限ります）を使って、やさしい味のするおやつを作って、息子たちに与えたいと強く思うようになりました。
アイデンティティの問題はあなどれないですね。子育てに忙しくて、そんなことしばらく考えたこともなかったけど、１２月にすてきな芸術家とアイデンティティについてお話しし、その後なかしまさんのレシピに出会ったことで、久しぶりにアイデンティティについてまじめに考えました。