2010-11-17 05:25:09雪子
世代間の葛藤
日本で修士課程に在籍していたときに酒井直樹の本を読み、カズオ・イシグロを知りました。その当時日本で彼の作品の日本語訳がすでに出版されていたのかどうかは分かりませんが、彼の作品を探して読んでみよう、というところまではいきませんでした。
《別讓我走》(原題:Never Let me Go)を読んだのはちょうど1年前です。当時なぜこの本を読もうと思ったのかaNobiiの読書記録を読んでも思い出せません。もともと、文学研究者が論 文で取り上げる作品なんて小難しいだけでつまらないのでは、と心のどこかで思っていたのですが、実際に自分で読んでみてすっかりはまってしまいました(私 は酒井直樹の文章も好きですが、どうも文学研究者のセンスに対して偏見があるようです。)。その後書店で《浮世畫家》(An Artist of the Floating World)をみつけたので即購入しましたが、さわりをちょっと読んだだけでそのままにしていました。
1年ぶりに《浮世畫家》(An Artist of the Floating World)を手に取りましたが、この本もなかなか面白いです。戦前に初等・中等教育を受け、途中で教育内容が激変した世代(教科書に墨を塗ったり)とは 子どものころ、就職してからも接する機会がありました。だから、彼女/彼らの「平和」「民主主義」に対する熱い思いのようなものはなんとなく理解できま す。しかし、この作品に出てくるような、戦前軍国主義を鼓舞するような立場にいた世代とそれを信じて戦争に赴き、多くの同世代の友人知人を失った世代につ いては、生活感覚としては知らないことに気づきました。特に、戦後のこの2世代間に生じた亀裂、敵意、葛藤については、ほとんど視野に入っていませんでし た。日本人だから、日本で生まれ育っているから日本のことをよくわかっているなんて思ったら大間違いで、ほんの2-3世代前の人が暮らしていた日本社会は どんなだったのかすらよくわかっていないものなのですね。カズオ・イシグロはどこかで、この作品で描いた日本は、彼の想像の産物だという記述を読んだこと があります。そのことからも、日本でどれだけ長く暮らしているかと、日本社会のある側面をうまく切り取ることができるかということはまったく別物だという ことがわかります。
この本『夜曲』は昨日高雄にある紀伊国屋で購入しました。日本でも台湾でもかなり評判が良いようなので、期待しています。日本では『夜想曲』という題名になっているようです。
自分が外国人になってから、分野を問わず心から「面白いなあ」と思える作品の作者の多くが、海外長期滞在経験があるか、海外移民した人であることが増えました。理由はまだうまく説明できませんが。
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