2004-06-30 23:15:36pochi
有一點奇跡

有一點奇跡
M.I作 「されどわが町」より、
「小さな奇跡?」
「そう、小さくて見えないけれども、明らかに奇跡ってことがあるでしょ。」
「うーん、奇跡ねぇ。」
リンさんは、ビールのグラスをかかえながら、ちらと里見さんの方へ眼をやった。あいかわらず里見さんは、コップで日本酒を飲みながら、大きな声で話をしている。それはきっと鉄道の話だろう、樫村さんも同じように大きな声でなにやら記号じみた話をしている。男の人はほんとうに乗り物が好きだ。
週末のかいつぶりは、ほぼ満席で、テニス帰りの私たちは、カウンターに身を寄せ合って生ビールを飲み出した。テニスの後のビールの美味しいこと、ついついいつになくグラスを重ねてしまう。グラス、というよりジョッキなのだから、若い娘としては、かなりはしたないかしら。
「小さくて見えない奇跡、」
リンさんは、私の言ったコマーシャルのフレーズを、メロディをつけて繰り返していたが、ちょっと空を見上げて考えてから浩介を指し示した。
「あの人が、必ず私の左に座ることかな。」
「左に?」
私はリンさんの言葉に首をかしげた。
「うん、左に。」
不思議な顔の私に、リンさんは笑って説明してくれた。
「私はね、昔から右の耳が少し遠いの。その話はしたこともないのに、いつも浩介は私の左に座る。それが、私にとっては奇跡かな。」
「ふうん。」
私は頷くと、リンさんは笑って、
「うん、それが奇跡、ほんとに奇跡よね。」
と、もう一度里見さんのほうを見て言った。
M.I作 「されどわが町」より、
「小さな奇跡?」
「そう、小さくて見えないけれども、明らかに奇跡ってことがあるでしょ。」
「うーん、奇跡ねぇ。」
リンさんは、ビールのグラスをかかえながら、ちらと里見さんの方へ眼をやった。あいかわらず里見さんは、コップで日本酒を飲みながら、大きな声で話をしている。それはきっと鉄道の話だろう、樫村さんも同じように大きな声でなにやら記号じみた話をしている。男の人はほんとうに乗り物が好きだ。
週末のかいつぶりは、ほぼ満席で、テニス帰りの私たちは、カウンターに身を寄せ合って生ビールを飲み出した。テニスの後のビールの美味しいこと、ついついいつになくグラスを重ねてしまう。グラス、というよりジョッキなのだから、若い娘としては、かなりはしたないかしら。
「小さくて見えない奇跡、」
リンさんは、私の言ったコマーシャルのフレーズを、メロディをつけて繰り返していたが、ちょっと空を見上げて考えてから浩介を指し示した。
「あの人が、必ず私の左に座ることかな。」
「左に?」
私はリンさんの言葉に首をかしげた。
「うん、左に。」
不思議な顔の私に、リンさんは笑って説明してくれた。
「私はね、昔から右の耳が少し遠いの。その話はしたこともないのに、いつも浩介は私の左に座る。それが、私にとっては奇跡かな。」
「ふうん。」
私は頷くと、リンさんは笑って、
「うん、それが奇跡、ほんとに奇跡よね。」
と、もう一度里見さんのほうを見て言った。