Paul AusterのNational Story Project Ⅰ、Ⅱ
私は生まれてこの方一度もアメリカに興味を持ったことはないし、アメリカに行ってみたいと思うこともほとんどありません。アメリカ的なものに憧れを抱いたこともありません。みんながアメリカ、アメリカと騒げば騒ぐほど、ますます興味を失います。だから、アメリカ文学にも特段の思い入れはありません。そんな私がここ数年アメリカ文学の作品を手に取るようになったのは、あくまでも村上春樹が選んで翻訳したものならきっと面白いに違いないと思ったからです。案の定、村上の手によって翻訳された作品はどれも興味深いものでした。でも、村上以外の翻訳者が訳したものを続けて読もうと思うまでにはいたりませんでした。
しかし、その後、柴田元幸という教授が、村上春樹とも内田樹とも親交があり、両者が柴田を高く評価していることを知って、彼らがそれほどいうなら読んでみようと思うようになりました。このNational Story Projectは、私が始めて購入した柴田の翻訳作品です。第一印象としては、この人の訳文は村上春樹の訳文と共通するものがあるということです。具体的にどこがどう似ているとはいえないのですが、読みやすくて、言葉が洗練されていて、でも、日本文学を読んでいるのとはまったく違った雰囲気があって…とにかく魅力的なのです。National Story ProjectのⅠは、読み始めたらとまらなくなり、深夜までかかって一気に読み終えました。どれもとても短いお話で、ページをめくるとすぐに全く違う人のお話に入り込まなければならないので、ときには同じお話を何度か読み返したりしないと前に進めませんでした。国籍、性別、階級、生活環境、時代・・・ありとあらゆる要素が私と全く異なるさまざまな書き手たちの物語に入り込むには時間がかかります。でも、そういう私と全く異なる人の物語に入り込めたとき、日本の多くのものを共有している人が書いた文章を読むのとは違った面白さがあります。薄い文庫本ですが、すいすい読めるわけではありません。でも、こういう企画はとても面白いと思いました。
日本でも同様の企画が始まりました。私も書いて投稿してみたいけれど、まだ筆が進みません。台湾でもこういう企画があれば良いのにと思いました。エリート研究者がインタビューして当事者に代わって書いてあげるものではなく、形式も文体もばらばらでも、その生を生きた当事者が書いた文章がそのまま掲載されるような本があったら良いと思います。もちろん、選考委員には、優れたセンスを有する人がならなければだめですが。形ばかりきちんと整えられていてもたいしたことを言っていない研究論文にはもう飽き飽きだし、時には憎しみすら感じます。もっと繊細で生き生きとした物語にたくさん触れたいと思うこのごろです。
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