「死ぬかと思った!」
「死ぬかと思った!」
「冷める前に飲もうか。」
恨めしそうな三津の視線を交わして湯呑みに茶を注いだ。
「それにしても随分と不名誉な肩書きを持ったもんだ。」瘦小腿醫美
「私だってそんな風に勘違いされるやなんて思ってませんでしたもん。」
湯呑みを手にして湯気の立つお茶にふぅふぅと息をかける。
その姿に吉田は目を細め,三津が居る事,手が届く事の喜びを噛み締める。
「でもまさかあんな所で三津に会えるとはね。」
「やっぱり目合ってましたよね?
吉田さん深く笠被ってたから顔が良く見えんくて……。」
「でも俺だと分かった?」
喋ってる途中で被せられた言葉に,三津はこくりと頷いた。
「でも自信なかったんです。だから確かめたくて追いかけようとしたんですけど…すみませんでした…。」
三津は軽率だったと自分を責めるが,吉田にとってはそんな事問題じゃない。
「じゃあ,俺が…。」
そこまで言ってやっぱり止めた。言葉の続きを首を傾げて待つ三津が目に映る。
『何て呟いたか分かった?
なーんて,分かる訳ないか。』
幾ら何でも,聞こえた筈ない。
偶然の再会を果たして,こんなにもすぐに触れられた事で,色々期待し過ぎと自嘲した。
「ただいま……って,言いました?あの時。
だから私,よく顔も見えんかったけど,声聞いた訳でもないけど,吉田さんやっ……て!?」
分かる筈がないと思っていたのに,届いていた。
この喜びをどう表せばいい?と自問した吉田は,再び三津を腕の中に引きずり込んだ。
「可愛いよ三津は,本当に可愛い。」
頭上から降り注ぐ可愛いの連呼に三津は息をするのを忘れた。三津は照れると言うより,吉田らしからぬ行動に呆気にとられた。
「吉田さん向こうで何かあった?変なモン食べた?」
からかっているにしても,吉田がこんなに真っ直ぐに可愛いなんて言うもんか。
「何それ,そう思ったから言ったのに。」
三津が変に思うのも仕方のない事。
吉田自身もまだ恥じらいや戸惑いがある。
『確かに今までじゃこんな事言わない。』
だけど八月十八日以来,考え方が変わった。
何が起こるか予測不可能。
『この身がいつどうなるか分からない。
だから言える時に素直に伝えるんだって言ったら,そんな不吉な事言わないでって怒るんだろ?』
恐くもない怒った顔で。
それが容易に想像出来てまた笑みが零れる。
「三津は可愛いって言われて嬉しくない?」
「そんな事はないですけど…。それより今何時?私夕餉の仕度しに帰らな…。」
それとなく話を逸らすが,
「帰れる訳ないだろ?」
吉田は三津から身を剥がして両肩に手を置いて諭すように話始めた。
「自分の立場分かってる?一応人質なんだからね。
ひとまず桂さんに君が間者でも土方の女でもないと証明してもらう必要があるんだから。」
「えー…それは困る。桂さんは今どこに居てはるの?」
「今は出てる。でも今日帰って来るかも分からないね。」
三津は眉を八の字にして困り果てた。
「今日は泊まって行けば?」
「友達の家に遊びに来たんやないんで…。」
「仕方ないね,ちょっと待って。」
吉田は立ち上がり,障子を開けて廊下に出た。
「誰か手空いてる?」
するとすぐに藩士が一人駆けつけた。
「はい,如何いたしました?
あ!?何縄解いちゃってるんですか!!」
「大丈夫,逃げるどころか迷って藩邸から出る事すら出来ない子だよ。
それより桂さん探して伝えて,土方の女を捕縛,拷問にかけると。」
「え!?」
三津はいやいやと首を横に振った。
「しょ…承知しましたっ!」
頭を下げて藩士はすぐさま廊下を駆けて行く。
「これで今日中には帰って来るよ。それまでは悪いけどここに居て。」
三津は頷く事しか出来なくて,不安に駆られながらも大人しくする事にした。
『私がおらへんってそろそろ気付いたかな?土方さん怒るかなぁ…。』
それからあの親子の顔が頭に浮かぶ。